避妊は女性が”自分らしく生きる”権利|子どもも知ってほしい性教育

性行為はパートナーとの大事なコミュニケーションの1つ。しかし、一歩間違えれば心身に大きな影響が出てしまいます。妊娠を希望していないカップルや夫婦が避妊をしないことは妊娠や性感染症のリスクを高めるでしょう。今回は、臨床心理士・公認心理師であり、フェムテックに関する知識も持つライターが、避妊に関する情報を解説します。避妊方法や学校教育における性教育、避妊をしないパートナーへの断り方など、どれも女性が自分らしく生きるために必要な知識です。

監修者
いけや さき
臨床心理士
心理学系大学院修士課程修了後、精神科病院や心療内科クリニック、療育施設などに従事。 「よりカウンセリングとセルフケアを身近に」という思いから、2020年にフリーの臨床心理士としてオンラインプラットフォームや個人サイトを通してオンラインカウンセリングを開始。主に20~40代女性のカウンセリングを担当。現在は女性が生きやすい世の中を目指し、ライターとしても情報提供を行っている。

資格
臨床心理士、公認心理師、マインドフルネススペシャリスト

男女で異なる避妊への意識

みなさんは妊娠が目的ではない性行為の際、避妊せず性交をした経験はありますか?

避妊方法にはさまざまな種類がありますが、その場の雰囲気で断れず、避妊しなかったこともあるかもしれません。国際協力NGOジョイセフの調査によれば、避妊をしなかった経験があると回答した人は15-29歳で約3割、20-64歳で約5割ということがわかりました。

男女のパーセンテージ自体は大きく変わらないのですが、避妊しなかった理由には男女差があるようです。

男性が避妊しなかった理由
「コンドームをつけると快感が損なわれる」
「避妊しなくても大丈夫だと思った」
「避妊具を持っていなかった」

女性が避妊しなかった理由
「断れなかった」
「言ったのにしてくれなかった」
女性の約7人に1人が、相手に合わせた結果避妊しなかったと回答していることがわかります。

また、「安全日だから」という回答も男女ともに2割程度いました。

みなさんは安全日の正しい認識をしていますか?

安全日は「妊娠しない大丈夫な日」ではなく、「妊娠しづらいと思われる日」なだけなのですよね。妊娠する確率はありますし、妊娠を希望されていないなら、いかなる時でも「妊娠しないから大丈夫」ではないのです。

参考
山口孝子ほか.大学生の避妊に対する態度と行動とのずれに関する検討.小児保健研究,66号,P83-91,2007.
性と恋愛 2021 ー避妊・性感染症予防の本音ー | 国際協力NGOジョイセフ(JOICFP)

なぜ避妊は必要なのか

避妊は、産みたいときに産むため、性感染症にならないため、そして望まない妊娠を防ぐために必要です。

性行為は大事なコミュニケーションの1つだけど…

性行為自体はパートナーとの仲を深めるためにも大事なこと。しかし、自分たちの思っていなかったタイミングで妊娠してしまうとどうなるでしょうか。

身体や心の調子を崩しやすくなったり、ライフプラン・キャリアプランが崩れてしまったり、経済面で苦労するなど、私たちが思っている以上に妊娠は人生を左右する大きなイベントなのです。

また、避妊は10代や20代の方だけが気をつけるものではありません。

30代や40代以降も望まない妊娠の可能性はあります。特に男性は精子の数が減少するものの、高齢化しても子どもを作ることが可能とされています。さらに、高齢化している精子は子孫に特定の病状等が出現するリスクも高まるのです。

どの年齢であっても、「妊娠を望んでいない性行為=避妊する」と男女ともに捉えておきましょう。

SRHRって知ってる?

SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)とは、性と生殖に関する健康と権利のこと。

SDGsとも深い関わりがあり、個人だけでなく企業等も意識する必要のある考え方です。SRHRは、自分の身体は自分で守ろう・自分で決めようという人権の1つとして考えられています。自分や大事な人の身体や性に関する正しい知識を持ち、互いに健康的で自分らしい生き方を実現させることは当然のことなのですよ。

「自分の心身を大切にしましょう」「大事な人の心身も大切にしましょう」という考えが世界的に定められているということですね。

~SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)~
セクシュアル・ヘルス
 自分の性に関する正しい知識を持ち、幸せを感じることは社会的に認められている
リプロダクティブ・ヘルス
 どのような人でも、心身ともに満たされ健康である
セクシュアル・ライツ
 自分の「性」や愛する人、性のあり方を自分で決める権利
リプロダクティブ・ライツ
 子どもを産む・産まないを決めることも自分の権利

参考
Mazur DJ & Lipshultz LI. Infertility in the Aging Male. Cur Urol Reports 19:54,2018.
予期せぬ妊娠に対する相談体制の現状と課題に関する調査研究|厚生労働省(平成30年度子ども・子育て支援促進調査研究事業)
一般社団法人日本生殖医学会|一般のみなさまへ
8 生涯を通じた女性の健康支援 | 内閣府男女共同参画局

避妊の方法をどのくらい知っていますか?

避妊というと、コンドームをイメージする人がきっと多いですよね。
実際にはさまざまな避妊方法があります。それぞれの役割を知ることは、避妊失敗やレイプなどの緊急時に望まない妊娠を防ぐためにも重要です。

コンドーム

男性器に被せて、膣内に精子が入ってこないようにする避妊具。日本では最も知られている避妊方法ですよね。性器の接触も防げるため、性感染症の予防にも効果的です。

コンドームは正しく使えば避妊効果は約85%、つまり妊娠の確率は2%となります。

しかし避妊の成功がわかりにくく、特に女性だけでは判断が難しいところはデメリットです。正しく使っても100%妊娠しないわけではないため、ほかの避妊方法と併用することが推奨されています。

経口避妊薬・低用量ピル(OC)

ピルという名称で知られている経口避妊薬(OC)。きちんと定められた方法やタイミングで服用することで、避妊効果が期待されているのが特徴です。

避妊目的ではなく、女性の生理痛や生理不順などの症状改善効果も期待されています。

このような効果から、ピルは女性のイメージが定着していますが、男性用の経口避妊薬があるのを知っていますか?日本ではまだあまり浸透していませんが、研究が繰り返され、現在は副作用がほとんどない男性用の経口避妊薬もあります。

子宮内避妊用具

避妊リングの方が聞き馴染みのある人も多いかもしれません。

子宮内避妊用具(子宮内避妊器具)は、子宮内に避妊具を取り付ける方法。一度取り付けると、2~5年ほど避妊できます。ピルと避妊率も同等なので、長期的に避妊したい人には合っているでしょう。

ただし、病院での装着と医師の定期チェックが必要なので、面倒に感じる人もいるかもしれません。また、出産経験のない女性は装着できないこともあります。検討中の人はまず婦人科に相談してみてくださいね。

子宮内黄体ホルモン放出システム

IUSと呼ばれる子宮内避妊用具の1つ。

子宮内に小さな器具を入れて黄体ホルモンを放出させる方法で、一度入れれば最大5年間は避妊できるといわれています。子宮内避妊用具の1つなので、医師による装着と定期チェックが必要となるのはデメリットに感じる人もいるかもしれません。

また、子宮内避妊用具の1つであるため、出産経験のない人は装着できないこともあります。

リズム法

基礎体温計を用いた避妊の目安を見つける方法です。

ほかの方法と違い、体内に何かを取り付けたり、飲んだり、手術する必要はありません。毎日きちんと基礎体温を測り、ストレスにホルモンバランスの乱れに気をつければ、避妊の目安は見つけやすいでしょう。

基礎体温計法以外に、頚管粘液法(けいかんねんえきほう)もあります。これは粘液を使って調べる方法で、慣れれば正確に排卵期がわかるようですが、慣れるまでは難しいといわれています。

ここまで説明しましたが、リズム法は避妊方法として確実なものではありません。ほかの方法と併用しながら行うことをおすすめします。

避妊手術

女性は卵管、男性は精管を糸で結んだり、切断する方法。

避妊手術の妊娠率は0.5%なので、100%の避妊率ではありませんが、半永久的に避妊できる確率はあがります。

今後妊娠を望まない男女には、長期的に見てコスト面もいい方法です。ただし、外科手術のため合併症のリスクはあります。ほかの避妊方法では絶対にダメなのかをよく考えてから行いましょう。

もしもの時の緊急避妊

アフターピルという言葉を聞いたことはありますか?コンドームと同様に、日本では知られているものかもしれません。

アフターピル(緊急避妊薬)は、避妊の失敗や望んでいない性行為などのあとで、妊娠を予防する役割。

通常、性交から72時間以内の服用が推奨されていますが、時間の経過と共に効果は薄れます。早めに服用できるなら、できるだけ早めに飲んだ方がいいでしょう。

便利に思っている人も多いですが、アフターピルはあくまでも「もしもの時の」ものです。毎回コンドームなしに性交して、毎回飲むようなものではありません。

避妊なしの性行為と変わりないため、性感染症のリスクもありますし、アフターピル自体に副作用もあります。緊急時の使用のみとし、使用の際には副作用について医師や薬剤師に相談することもおすすめします。

参考
避妊方法は?:経口避妊薬(OC/ピル)について|富士製薬工業株式会社
リズム法に基づく避妊法 - 18. 婦人科および産科 - MSDマニュアル プロフェッショナル版

海外の避妊事情|日本は遅れている?

日本の避妊方法は男性主体のコンドームが定番なのに対し、海外では女性が主体的にできる避妊方法の選択肢が日本よりも多いそうです。

また、ピル使用率も高く、その背景にはピルの価格にあるといわれています。日本のピルの価格は数千円であることに対し、海外は条件付きではありますが無料のところや1000円程度で購入できる国もあるそうです。

アフターピルも同様に、日本価格と海外の価格は異なり、海外の方が経済的負担が少なく手に入りやすい状況。避妊に限らず、医療的支援を受けやすい環境が整っているため、婦人科受診に抵抗感も少ないといわれています。

むしろ、積極的な避妊や受診は自分の身体や健康のことを考えているからこその選択肢として、当然のものなのでしょうね。

参考
劔 陽子ほか.アメリカ合衆国における人工妊娠中絶と10代の望まない妊娠対策 わが国における人工妊娠中絶と10代の望まない妊娠対策と対比して.日本公衆衛生雑誌, 49 巻 10 号 p. 1117-1127,2002
緊急避妊薬に関する海外実態調査 結果概要|厚生労働省


学校教育における性教育の位置づけ

ここまで読んで、「こんなに避妊方法ってあるんだ」「避妊って自分を守るために大事なんだ」と感じた人はきっと多いですよね。今まで知らなかった背景には、もしかしたら学校教育における性教育の位置づけが関連しているかもしれません。

文部科学省の資料によると、小学校・中学校・高校で以下のように学習指導要領が定められていることがわかりました。

小学校
男女の体の発育や発達、初潮と精通が起きることなどを取り扱う
中学校
性に関する適切な態度や行動の選択、受精や妊娠に関する知識、エイズや性感染症などを取り扱う
高校
受精や妊娠などに伴う健康課題・健康管理、中絶の心身柄の影響、エイズなどの感染症予防などを取り扱う

あくまでもこれらは基準であり、地域や学校ごとに細かな内容は異なります。
また、性教育といっても性行為・性交の話ではなく、身体の仕組みや病気のリスクなどの話が中心。教員のなかには、性行為の話をして興味を持たれることを心配する声もあるようです(心配する保護者様もいるでしょう)。

その気持ちもわからなくはないですが、子どもたちが成長する過程で、自分と大事な人を守るために必要な知識を教えてもらえる機会が増えるといいですよね。

参考
学校における性に関する指導について|文部科学省

雰囲気や勢いに飲まれず断るには?

最後に「断れない」人たちのために断る方法と、断るために必要な知識として「性的同意」を解説します。

今パートナーがいない人も、将来の自分のために読んでみてくださいね。

性的同意は互いの気持ちを確認する方法

性的同意という言葉を知っていますか?
デートに誘うときなどに「水族館行かない?」「来週の日曜日空いてる?」などと声をかけると思います。それと同様に、性行為や手をつなぐときなどにも「同意」が必要であり、それを「性的同意」といいます。同意はあいまいなものではなく、共に積極的に性行為を望んでいるかが重要。

令和5年の夏に法律が改定され、強制性交等罪は「不同意性交等罪」となり、性的画像の盗撮は「撮影罪」となりました。

また、性交同意年齢が16歳未満に引きあげられ、16歳未満の子どもに性交やわいせつ行為等をすると「不同意性交等罪」や「不同意わいせつ罪」が成立します。

これだけ聞くと「大人には関係ない」と感じる人もいるかもしれません。しかし、性的同意は大人同士も必要です。恋人や夫婦であっても性的同意は必須。性的同意のない行為は性暴力なのです。このことを踏まえてカップル、夫婦、それ以外の場合の「断り方」を解説します。

カップルの場合

体調が悪い場合や生理中など、性交をしたくないとき・できない状態のときってありますよね。そのほかにも、彼が避妊を拒否する場合などもあるかもしれません。そんな時は…

1.性行為自体をはっきりと断る
2.理解のない彼とは別れる
3.自分にできる避妊をする

相手を傷つけない言い方やタイミングが重要です。しかし避妊をしてくれない場合は、何よりも自分の心身の安全を優先しましょう。

「はっきりと断る」と言っても「イヤ」「やめて」などの否定的な言葉よりも、「○○してほしい」「○○しよう」とお願いや提案する言い方が相手を傷つけなくていいかもしれません。(例:コンドームをつけてほしい、今日は生理だから来週しよう)相手がそれでも理解を示さない場合は、「イヤ」「やめて」と言葉と身体で意志表示しましょう。

カップルだと言いにくいかもしれませんが、パートナーと冷静な状態のときに性交について話しておくことも重要です。

性行為はコミュニケーションの1つ。相手を思いやり、大切にする気持ちがあってこそのものですよね。

男性側の希望だけを尊重して、女性がさまざまなリスクを背負う必要はありません。避妊や女性の身体に理解のない男性とは別れる選択は立派な「SRHR」です。

自分にできる避妊方法も行いながら、我慢せず自分の心身を大切にしましょうね。

夫婦の場合

カップル以上に夫婦は「断りにくい」と思ったり、男性側が「同意なんて必要ない」と捉えていることが多いかもしれません。

夫婦の場合も、妊娠を望まない場合や時期、産後直後、仕事や家事育児で疲れているときなど、性交をしたくない日や避妊をしてほしい日はあります。そんなときは…

1.性行為自体をはっきりと断る
2.妊娠計画について話し合う
3.専門家に相談

夫婦の場合も、カップルと同様に言い方やタイミングに気をつけて「はっきり」断りましょう(断るコツはカップルの方に書いています)。

そもそも夫婦で妊娠計画を話し合ったり、パートナーの機嫌がいいタイミングでセックスに関して自分の気持ちを話す機会を作ることも重要です。特に妊娠をするかどうかは、今後のライフプランにも大きく影響します。

2人だけでは話し合えない場合は、専門家に相談するのも選択肢の1つ。カップルカウンセリング・夫婦カウンセリングの活用や、1人でカウンセリングを受けて自分の気持ちを第三者に話す場を作るのも解決につながりますよ。

それ以外の場合

付き合う前など、交際関係ではない状態で誘われた場合も「はっきりと断る」勇気を持ちましょう。

また、性犯罪に遭わないとも限りません。防犯ブザーを持ち歩く、イヤホンやスマホのながら歩きをしない、道を聞かれてもむやみに近づかないなど、日頃から意識するのも自分を守るためには大事なことです。

咄嗟の場合は声が出ないことや身体が動かないこともあるでしょう。声が出ない場合のために護身術、身体が動かない場合のために防犯ブザーなどがあります。「私が被害に遭うわけない」と思わず、自分を守れる術は身につけておきましょうね。

参考
もっと話そう、理解しよう #性的同意 ~基礎編~ | 政府広報オンライン
性犯罪の被害にあわないために|大阪府警本部

避妊は女性が、自身を守って自分らしく生きるための権利

避妊方法や性行為、女性の健康課題に関連する病気など、女性の健康管理に関する知識を持っていて損はありません。
望まない妊娠や性感染症などになってから「あのとき断っておけば」「気をつけていれば」と思っても、悔しいですが時間は巻き戻せないですよね。

自分の心身を守れるのは、女性である私たちだけ。

断る勇気がいるかもしれない、周りに相談する勇気がいるかもしれない…ですが、本当はどれも恥ずかしくないことであり、自分の身体を守るための行動はすべて大事なことなのです。

この記事が女性の皆さまの心と身体の健康と幸せにつながり、女性の健康について男性の理解が深まることを願っています。

心理カウンセラー(臨床心理士・公認心理師)
医療・福祉施設勤務を経て、フリーのカウンセラー・ライターとして活動中。

“心と身体はつながっている”という考えのもと、女性たちが穏やかで自分らしいライフスタイルを手に入れるためのカウンセリングや情報提供しています。

わたし自身も外側と内側の両方の健康を意識し、運動を意識するほか、最近では漢方や薬膳、食生活に関する分野を勉強中です♪

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