もくじ
臨床心理士
資格
臨床心理士、公認心理師、マインドフルネススペシャリスト
「夫との会話が少ない」
「話しても言い合いになる」
「一緒にいる時間が減った」
みなさんはご主人に対して、結婚当初と同じ気持ちでいますか?それとも不満や不安を抱えていますか?
・つい子どもや自分のことを優先してしまう
・平日も休日も別行動が増えた
・夫にイライラすることが増えた
・夫に「これくらいやって」「わかってよ」と思うことがある
・ほかの家庭の話が羨ましい
・結婚当初の気持ちがほぼ思い出せない
いずれかに当てはまっている女性は、ぜひこの続きを読んでご自身のメンタルヘルスや夫婦関係改善の参考にしてみてくださいね。
夫婦のすれ違いが起きる背景
愛し合って永遠を近い結婚したはずの夫婦。それにも関わらずすれ違う原因にはなにがあるのでしょうか。まずは代表的な原因を解説します。
根本的な価値観の違い
みなさんの両親や兄弟とみなさんの価値観は同じですか?「違う」という人も少なくないですよね。夫婦は家族だけど他人です。価値観の違いを感じるのは当然のことでしょう。
しかし、なぜ価値観が違うのに結婚できたのか…それはおそらく結婚したから価値観の違いに気づいたのかもしれません。たとえ同棲していたとしても、恋愛と結婚は違います。
相手との関係のなかで自分を満たしながら、相手によく見せようとする場面が少なからずある。結婚を意識している場合は、価値観の違いにも歩み寄ったり話し合おうとする気持ちが出てくる。
愛があることを前提に、経済面や責任、人間力など恋愛以上に「リアル・現実」を相手に求めるようになる。家族や親戚とのつながりも考えながら、「新しい家族」を作り上げていく協力関係。
恋愛は楽しさや居心地の良さで成り立つこともあるけど、結婚は協力関係を結ぶものです。楽しさや居心地の良さだけでは解決しない「金銭面・経済力」「休日の使い方」「衛生・清潔面」「子育て」「仕事や家事に対する考え方」などのすり合わせが必要となってきます。
結婚する前には気づかなかった根本的な価値観の違いが、夫婦のすれ違いを生む原因の1つと考えられるでしょう。
近しいからこそ怒りは生じる
心理学的観点では、親密な関係において怒りが生じやすいといわれています。恋人や親友、親、毎日会う職場の人なども親密な関係に入ることも多いですが、特に夫婦関係において無意識のうちに怒りを感じている人は一定数います。
「家族だから理解し合える」
「私は理解しているから、あなたも理解できる」
「私ができているから、あなたもできる」
夫婦だから同じ気持ちであり、分かり合えるし、互いに平等であると捉えすぎている場合、相手が自分の想像する通りになっていないと怒りを感じてしまうのです。
この怒りには、期待や甘えが関係しているという研究がありますが、それ以外にも「これだけ私は頑張ってる」「私はこんなにつらい」など、努力を認めてほしい気持ちや悲しさを受け止めてほしい思いもあると考えられます。
夫婦がすれ違いとなる原因の1つは、このような相手に対する気持ちや思い込みによって生じた怒りもあるでしょう。
相手に求めすぎてしまう
親密な関係だからこそ起きる怒りとも似ていますが、相手とコミュニケーションをとるのではなく求めすぎてしまうことも夫婦がすれ違う原因の1つです。
前提として、求めすぎてしまうみなさんだけが悪いのではないですが、「夫なんだから」「父親なんだから」と役割を求めたり、「言わなくてもやってほしい」と察して動いてほしいと思ったことはありますか?
こういうときの妻側の心理と夫側の変化には以下のようなパターンがあります。
- 自分が察してできているからやってほしい
女性は結婚や出産を通して、責任感が増し、強くなる人が一定数います。男性よりも女性の方が婚姻生活においては現実的にとらえやすいのかもしれません。こなせてしまうからこそ、相手にも近しい変化を求めてしまうことがあります。 - 結婚前まではご主人が彼氏として頼もしく見えていた
結婚したら急に頼もしさが見えなくなってしまうとどう感じますか?「え、どうしたの?元に戻ってよ」と思うのも当然ですよね。しかし、恋愛と結婚は違う…よく見られたいとご主人はがんばっていたのかもしれません。 - 片方が妻や夫相手に限らず、人に役割や理解を求めやすい
どちらかもしくは両方が相手に役割を求めやすいパターンもあります。「~すべき」「~なんだから」「ちゃんとして」「~しなきゃ」などの言葉を使っていませんか?自分の言動を振り返ってみましょう。
コミュニケーション不足
ここまで紹介した原因のすべてと関係しているのが、コミュニケーション不足です。
日本人は男女ともに「言わなくても気づいてほしい」という人が多いといわれていますが、気持ちや考えは相手に言葉で伝えないと伝わりませんよね。
コミュニケーションをとっているはず…と思っているみなさんも、最近のことを思い出してみましょう。
- 一方的に話していませんか?
- 最低限必要なことしか伝えていませんか?
- スキンシップはとっていますか?
- 2人きりで毎日どのくらいの時間話していますか?
- LINEでやりとりすることが増えていませんか?
- セックスレスになっていませんか?
「全然コミュニケーション取れてないかも…」と思ったら、ぜひ夫婦の会話や関わり方を見つめなおしてみてくださいね。
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パートナーシップは心理学をヒントに整えよう
夫婦の協力関係、つまりパートナーシップは心理学の考えをヒントにすると整えやすいです。今回は『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』で注目を集めたアドラーと、カウンセリング業界で傾聴や共感的理解を広めたロジャーズの考えをもとに解説します。
支え合う仲間(共同体感覚)となる
個人心理学はアドラーによって創始された心理学です。日本では「アドラー心理学」の方が聞きなじみがあるかもしれません。アドラーの心理学ではいくつかの中心的理論概念がありますが、その1つが共同体感覚です。
共同体感覚とは、簡単にいうと人とのつながりです。私たちは家庭や職場、地域などの一員であり、互いを思いやりながら接する仲間であるということと捉えられています。思いやるためには、相手に関心をよせ、相手を尊敬・尊重し、信じることが重要だとアドラーは述べました。
このなかで「尊敬」が特に夫婦関係では重要かもしれません。アドラーの尊敬とは、自分と相手の価値観が違っていたとしても、相手の視点を忘れずに関心と敬意を示すことといわれています。
『幸せになる勇気』では、教師となった青年が「教育」について哲人と対話するなかで、子どもに対して叱る大人は自分の価値観や視点で物事を見ている、という話題があがっていました。縦の関係ではなく、横の関係つまり一人の人間としてみることが夫婦に限らずどんな関係性でも必要ということですよね。
夫婦こそ相手に関心を持ち、たとえ違う価値観であっても、相手を尊敬し支え合う仲間になれると、すれ違いも少なるかもしれません。
参考図書
岸見 一郎, 古賀 史健 『嫌われる勇気』ダイヤモンド社,2013
岸見 一郎, 古賀 史健 『幸せになる勇気』ダイヤモンド社,2015
変化する関係性を理解し、尊重し合う
そもそも、パートナーシップという言葉を世に広めた人物こそが心理学者のカール・ロジャーズ。ロジャーズは、心理学の3大潮流の1つ「人間性心理学」の代表者です。
ロジャーズは、パートナーシップとは「必ずしも永続性のあるものではないけれど、 一時的な関係よりもっと意味のあるつながり」と定義しています。そのうえで、夫婦が互いの気持ちを伝えあい、深いコミュニケーションが取れれば、今抱えている問題(すれ違い)を乗り越えることができると考えているのです。
夫婦関係は一時的な関係よりは深いけれど、関係性は常に変わるもの。夫婦それぞれが「個」「自分らしく」いることが必要であり、それらを互いに理解しようと試みる姿勢が夫婦関係には重要なのです。
参考図書
諸富祥彦 『カール・ロジャーズ 〜カウンセリングの原点〜』角川選書,2021
「夫が理解してくれない場合は?」
ここまではあくまでも、相互に話し合おうという姿勢が作れた場合の心理学的ヒントをお伝えしました。
しかし、いくら妻が歩み寄っても、夫が非協力的であったり、問題を認識していないパターンもあるでしょう。他人を変えることはできないですよね。夫が理解を示さない場合、みなさんが婚姻関係を続けていきたいのであれば、夫婦だけでどうにかしようとしない方がいいです。
まずはみなさん自身が、1人でがんばらずに第三者へ相談する機会を作りましょう。ご友人や親族などに話してスッキリする場合や、ご主人に対する見方や接し方が変わることもあります。ただし、できれば専門家に一度頼ることがおすすめです。
医療機関ではなくても、カウンセリングルームやオンラインカウンセリングサービスなどが存在します。まずは行きやすいところへ行ってみましょう。
カウンセリング以外にも心理療法の1つに家族療法というものがありますが、こちらは妻のみなど片方だけで受けることも可能です。家族療法には学派が複数ありますが、家族の問題を修復するというよりも、家族とカウンセラーが協力し合い、視野を広げて問題解決を目指します。
一方で、近年はカップル・夫婦カウンセリングも増えてきました。婚姻関係前のカップルや夫婦で一緒に受けるカウンセリングです。家族療法よりも2人一緒に受けることが多くの場合は前提となっているので、夫があまりにも夫婦のコミュニケーションに無関心の場合は一般的なカウンセリングや心理療法を1人で受けてから検討してみてもいいかもしれません。
パートナーシップのために、まずは自己理解
結婚は我慢が付き物…とも聞きますが、この我慢は自分自身の悲しい気持ちや苦しい思いを我慢するものではありません。誓いの言葉にもあるように、嬉しいときも悲しいときも共に分かち合い、支え合っていくのが夫婦です。
自分の気持ちを我慢し、犠牲にする考え方は、相手を尊重しているのではなく、相手の領域に入りすぎてしまった「個」がない状態でしょう。
とはいえ心理学的理論はわかったとしてもできない、どうしたらいいのか分からないと苦しいですよね。夫婦のすれ違いを解決するためにも、まずは自己理解を深め、自分自身を大切にしてくださいね。
心理学をヒントに夫婦のすれ違いを防ごう
ロジャーズとアドラーの心理学をベースに、パートナシップや夫婦のすれ違いについて解説しました。
この記事を読んでいるみなさんは、どうにかしたいと1人でがんばってきたのだと私は感じています。ぜひ心理学をヒントにしながら、自分を大切にし、周りを信頼して頼っていってくださいね。
最後の写真のように、夫婦が同じ方向を見て歩めることを願っています。