「国民生活基礎調査(平成28年度)」によると、自覚症状ランキング1位は、女性では1位肩こり、2位腰痛で、男性では1位腰痛、2位肩こりという結果が出ています。肩こりはもはや「国民病」といっても過言ではありません。特に日本人は欧米人に比べて、頭が大きく首から肩の骨格や筋肉や華奢にできているため、肩こりをおこしやすい人種なのです。
肩こりを改善するためにはまずその原因を知ることが大切です。長時間同じ姿勢で居続けることによる血行不良、インナーマッスル(筋肉)の衰えからくる姿勢の崩れ、運動不足、ストレスによる緊張などが肩こりの原因として考えられます。
どれかひとつでも心当たりのあるものがあるのではないでしょうか。まずは、肩こりを引き起こす原因と、肩こり以外に起こる弊害はどういったものがあるのかを解説していきます。普段の生活を見直すことから始めましょう。
血行不良
血行障害は、肩こりを招きます。寒い冬や夏のエアコンなど、身体が冷えることで筋肉が収縮し固くなり血行障害を引き起こします。また長時間同じ姿勢でいることやストレスなども、自律神経の乱れや筋肉の緊張の持続を招き、血液循環が滞ります。
私たちの体の中を流れる血液は、約1分間のうちに身体中を巡り、老廃物を体外に排出しながら、酸素などの栄養素を全身に届けています。しかし様々な要因から血行不良を起こすと、肩こりなどの様々な身体の不調が出てきます。
肩から背中にかけての筋肉に沿って流れる血液の流れが滞ると、筋肉の老廃物が蓄積し血管が圧迫されます。その結果、痛みや筋緊張感といった肩こりの症状をもたらしてしまうのです。
肩から背中にかけての筋肉は広範囲にわたりますが、その中でも肩こりに深くかかわっている筋肉は、「肩甲挙筋」と「僧帽筋」です。
・肩甲挙筋:腕を上げる筋肉
・僧帽筋:頭を一定角度に保つ筋肉、胴体を固定する筋肉
これらの筋肉は周辺の筋肉とつながっており、肩から背中にかけて広範囲に影響を与えます。
そのまま放置して負のスパイラルに陥ってしまう前に、ヨガで血行促進、肩こり改善をめざしましょう。
深い呼吸とともにヨガのポーズをとることによって、身体の血行が改善されていきます。
姿勢の崩れ
肩は、4~6㎏の頭を支えており、ただでさえ負担がかかりやすい部位です。重い頭を支えているのは、頚椎(首の骨)を含む背骨と、首や肩、背中の筋肉です。姿勢が崩れると頭の位置が肩より前に出てしまい、頭の重さの数倍の負荷が首や肩にかかります。うつむくだけでも負荷がかかり、最も姿勢が悪い状態では27㎏になるといわれています。
普段の姿勢が猫背であったり、目線が下に向きすぎるスマートフォンやデスクワークの姿勢、というのはやってはいけない姿勢です。
姿勢の中でも最近よく耳にする「スマホ首」とは、「ストレートネック」のことを言います。首は緩やかにカーブした形状になっていて、重たい頭をクッションのように支えているのですが、うつむいた状態が長時間続くと、首が直線に近い状態「ストレートネック」になってしまいます。クッション機能が無くなった首は、重たい頭を支えなければならなくなり、肩こりだけでなく、頭痛、首の痛み、めまい、時には吐き気などの症状がでることがあります。
ストレートネックは以下の項目でチェックしてみましょう。
□長時間のデスクワーク(3時間以上)
□スマートフォンを長時間使用する(1時間以上)
□首を後ろに倒すと痛みがある
□座っているときに肩や首が凝る
□頭が重く感じたり、締め付けられるような違和感がある
□猫背だと感じている
スマートフォン使用時やデスクワークの際に正しい姿勢を保つには、以下の項目を意識しましょう。
□画面との距離を40㎝以上とる
□肩を内旋させず(丸めず)に顎を軽く引く
□1時間おきに10分程度の休憩をはさむ
□首の後ろを長く保ち、手の位置を高く、目線の先にスマートフォンを持つ
□骨盤を立てて座る(骨盤を寝かせて後ろにもたれるように座らない)
正しい立位の位置は以下の項目でチェックしましょう。
□足裏の重心の位置はくるぶしの指2本分手前、足首の真下
□足裏は親指のつけね(母指球)小指のつけね(小指球)、かかとの三点で支える
□下腹部を軽く引き上げ、足裏で床を押し、頭頂を天井からつられているイメージを保つ
□壁にかかと、おしり、肩、後頭部をつけたときに、手のひらが1枚分、腰と壁の隙間に入る隙間がある
□立ち姿勢を横から見た際、耳の穴、肩、腰(大転子)、膝横、外くるぶしを結んだ線が一直線である
□鎖骨を横に伸ばし、肩を耳から離し腕を降ろす(手のひらが内向きになっている)
ヨガのポーズは、インナーマッスル(体の深部、骨に近い部分の筋肉)が鍛えられます。インナーマッスルは体を支える筋肉です。また、姿勢の崩れは、筋肉のバランスにも関係しているので、緊張し後ろに引っ張りすぎている背面の筋肉をほぐす必要があります。ヨガで筋バランスを整えることは、正しい姿勢をキープすることにつながります。
運動不足
運動不足になると、筋力低下を招き筋肉が緊張しやすくなります。筋肉は血流と深くかかわっているので、血行不良を招きます。特に中高年のシニア世代は、骨や筋肉が弱くなるので、肩こりになりやすく注意が必要です。
運動は、筋肉量の低下を防ぎ、柔軟性も高め筋肉をしなやかに保ちます。筋肉は血液を送るポンプ運動の役割を担っているため、全身の血流をよくしてくれます。運動を習慣化することで、肩こりを起こしにくく、疲れにくい体を作ることができるというわけです。
取り入れる運動の強度は、肩こりの予防を目的とした場合、筋肉に強い負荷をかけるよりも、軽めの運動が効果的です。軽めの運動といえば散歩やウォーキングになりますが、天候や時間帯に左右されるところが少し残念。その点、室内で行えるヨガは継続しやすくおすすめの運動と言えます。
運動の回数としては、必ずしも毎日やらなくては意味がないわけではありません。もちろん毎日運動ができるのであれば、効果は早く実感できるでしょう。しかし、忙しくて時間をそこまで割くことができない人も無理なく運動の習慣をつけることのほうが大切です。運動は週に3~4回のペースで継続すれば効果があるといわれています。自宅でヨガを取り入れたり、通勤や買い物で階段を使用する、一駅歩くなど、ちょっとした心がけで毎日の活動量を増やすことは可能です。
ストレス
肩こりを引き起こす原因のひとつがストレスです。ストレスは身体の様々な機能を調整する自律神経を乱します。自律神経は下記の2つがあります。
交感神経:(自動車でいうアクセル)活動的な時に優位になる
血管の収縮
心拍数が高くなる
血圧を上昇させる
呼吸が速くなる、浅くなる
胃液の分泌が低下する
副交感神経:(自動車でいうブレーキ)安静時に優位になる
血管の拡張
心拍数を下げる
血圧を下げる
呼吸が深く、ゆっくりになる
胃液の分泌が増える
ストレスがかかっている時、交感神経が盛んに働き、血管が収縮し血行が悪くなります。肩まわりの筋肉の緊張や血行不良は、肩こりだけでなく、顔色がすぐれない、シミしわ・たるみなどの原因にもなります。
ヨガのポーズは、自律神経が多く走る背骨を使うため、自律神経の乱れを整える効果が期待できます。また、呼吸を深く意識しながらポーズをとるため、交感神経に傾いていた自律神経を副交感神経を優位に導きやすくなり、筋肉の緊張もほぐれやすくなります。
肩こり改善ヨガポーズ5選!
ヨガを一度もしたことがない、初心者、身体が固いといった方にも、手軽に取り入れられるヨガのポーズをご紹介します。ここから解説するヨガポーズは、オフィスでも自宅でも両方のシチュエーションで取り組めます。是非日常にヨガを取り入れる参考にしてくださいね。
オフィスでおすすめのヨガポーズ
ヨガには様々な種類があり、チェアヨガは椅子に座りながらでも簡単に行うことができます。ここではオフィスでの長時間デスクワーク時に役立つヨガポーズを2つご紹介します。
鷲のポーズ
凝り固まりやすい、肩甲骨から背中にかけての筋肉をほぐすことができます。肩甲骨の間を広げていくイメージを保ちつつ深い呼吸を意識しましょう。
【やり方】
1.椅子に浅めに座り、背中を背もたれから離し、骨盤を立てます。
2.両腕を前に伸ばし肘のあたりで交差させ、自分を抱きしめるように両肩を抱えます。
3.両肩からさらに指を歩かせ、背中側へと腕をさらにきつく交差させます。
4.両手を肩から離し、指先が天井を向くように手の甲を合わせます。
(さらに深められる方は、手のひら同士を合わせましょう。)
5.息を吸いながら、肘が顔(顎もしくは鼻)あたりまで来るようにゆっくりと腕を上げます。
6.肘の高さをキープしながら5呼吸ホールドします。
7.左右の腕を入れ変えて同様に行いましょう。
【ポーズのコツ】
肩を上げずに、肩甲骨や肩を下げ、耳から遠ざけるイメージでポーズをとります。
腕をクロスした際に、手の甲同士が合わせられない人は、クロスした上の腕の肘を伸ばすとポーズを軽減できます。
牛の顔のポーズ
肩甲骨周辺をほぐし、肩の可動域を広げてくれます。肩こり改善の他に、二の腕の引き締め、脇下の腋窩リンパ節の刺激からバストアップにも効果が期待できます。
【やり方】
1.右腕を天井方向へ上げ、肘が正面を向くように手のひらを後ろへ向けます。
2.右腕の肘を曲げ、背中へまわします。
3.左腕を肩の高さに上げ、手のひらを後ろにまわします。
4.左腕全体をさらに後ろへ引き、肘を曲げたら下から背中へまわして手をつなぎます。
5.息を吸いながら引っ張り合い、息を吐きながら顎、肩の力を抜きます。
6.そのまま5呼吸ホールドします。
7.左右の腕を入れ替えて同様に行います。
【ポーズのコツ】
ろっ骨を開きすぎないように、おなかを締めます。
上げているほうの肩が上がって緊張しないように、肩甲骨を下げてポーズをキープします。
背面で両手が繋げない人は、軽減方として、タオルを持ち両手で引っ張ってポーズをとる方法があります。
自宅でできる簡単ヨガポーズ
ここからは、自宅でゆっくりと行えるヨガポーズを3つご紹介します。お風呂上りなど、身体が温まっているタイミングもおすすめです。布団の上でもできるポーズなので、1日の終わりに凝り固まった体をヨガでリセットしてあげましょう。安眠効果もあり、翌朝は心も体もスッキリします!
猫のポーズ
※KAORI ヨガ - 初心者向けレッスン より引用
肩だけでなく、骨盤の歪みも調整され腰痛などにも効果が期待できます。背骨を使うので、背骨周りに走る自律神経にアプローチすることもでき、自律神経の乱れを整えることに役立ちます。インナーマッスルが鍛えられ、猫背姿勢を変えることも目的に取り組めますよ。
【やり方】
1.両手を肩の真下、両膝は股関節の真下に四つん這いになる。
2.息を吐きながら、尾てい骨を下に向けるように徐々に背骨全体を丸めていく。目線はおへそ。背中全体を丸めた状態で、両手で床を押すと肩甲骨の間が広がるのがわかります。
3.息を吸いながら、尾てい骨を天井方向へ向けるように、下から順番に背骨をひとつひとつ動かし、背中を反らせていきます。目線は正面か天井方向へ向けましょう。
4.1~3の流れをゆっくりとした呼吸に合わせ、5回~8回繰り返します。
【ポーズのコツ 】
両手を大きく開き、手のひら全体を使って床を押しながらポーズをとります。
肩や腰の位置を動かさずに背骨全体を動かします。
足は寝かせても、つま先を立ててもどちらでもやりやすいようでかまいません。
首に痛みのある人は、無理に頭を動かさず首に負担のかからない範囲で行いましょう。
魚のポーズ
首から背中にかけて、広範囲でほぐすことができます。胸を大きく開くので、猫背で呼吸が浅くなりやすい方も呼吸が深くなり、寝る前の安眠ヨガとしておすすめのポーズです。のどを強く伸ばすのでリフトアップ効果、そして喉周りにある甲状腺を刺激しホルモンバランスを整える効果も期待できます。
【やり方】
1.仰向けの状態から、両腕を手のひらを床に向けた状態で体の下に入れます。両手はおしりの下にセットします。
2.脇を締め、肩甲骨を寄せ胸を広げます。
3.頭頂は床につけたまま、肘と腕を使って床を強く押し、背中を持ち上げます。
4.のどの前面を伸ばし、頭頂を床につけ、身体は腕で支えます。
5.胸が大きく広がるのを感じ、ゆっくりと5呼吸キープします。
6.ゆっくりとポーズを解放させ、背中を床に下ろし両腕を体側に戻します。
【ポーズのコツ】
首を傷めないよう、体を持ち上げる際は両肘でしっかりと支えましょう。
体のかたい方は、道具を使用した軽減方で取り組みましょう。*ストレッチポールや大きめのブランケットを縦に長く丸めたものを背中に当てて体重を床にあずけることで胸が開きます。
*おすすめのストレッチポール
ウサギのポーズ
※ ニュートリライト 公式チャンネル Nutrilite Japanより引用
ヨガの逆転系のポーズです。頭頂部にある「百会のツボ」を刺激し頭部の血流を促進させます。眼精疲労や頭痛、肩こりなどの症状改善に効果が期待できるおすすめのポーズです。ヨガにはカウンターポーズをいうものがあり、ひとつのポーズをした後に反対の動きになるポーズを行い、心や体の状態を、ニュートラルに戻しバランスをとるようになっています。「鷲のポーズ」と「牛の顔のポーズ」がカウンターポーズです。「魚のポーズ」のカウンターポーズに当たるものが「ウサギのポーズ」になります。
【やり方】
1.正座の状態から上半身を前に倒し床にあずけ、両手を床につきます。
2.額は床につけ、おしりを徐々に持ち上げていきます。
3.立て膝の状態で、首が垂直になるように頭頂部を床につけます。
4.両手を腰の後ろで組みます。
5.息を吸いながら組んだ手を高く天井方向へ伸ばし1~3呼吸ホールドします。
6.ポーズから解放するときは、両手を床に戻し、ゆっくりと腰を下ろしていきます。両手でげんこつを作り重ねた上に額をのせます。頭を上げるときは、頭が最後になるようにゆっくりと体をおこしましょう。
【ポーズのコツ】
肩がすくまないように、肩甲骨を背骨に寄せて、腕を伸ばしていきましょう。
無理に行うと首に負担のかかるポーズです。腕を上げずに行うことでも十分効果は期待できます。軽減方としては、両手を顔の横についたまま行います。
床につく頭頂部が痛い場合は、畳んだタオルを敷いてポーズをとります。
首を傷めないように、ポーズをとっている最中は顔を動かさず、目線は一転を見つめましょう。
ヨガでゆったり肩こりを改善しよう
運動が苦手という方もヨガであれば手軽に行えるため、日常に取り入れやすくおすすめです。
肩こりを改善するヨガは、姿勢改善、美肌効果、整腸作用、リフトアップ効果、メリハリボディメイク、疲れにくい体づくりと様々な効果も期待できます。
そのためには継続することが重要です。辛い肩こりにお悩みに方は、今回ご紹介したヨガのポーズを参考に、ご自身に合うペースで取り組んでみてはいかがでしょうか。