もくじ
多様性が求められる時代に向けて、自分の意識を見直してみませんか?
他人の何気ない一言に一喜一憂してしまう、完璧主義で仕事を一人で抱えてしまう、頑固で自分の意見を譲らないといった行動に思い当たることはありませんか?
そういった場面は仕事のときだけではありません。例えば、TwitterやInstagramといったSNSを見ているときの自分を振り返ってみてください。自分が投稿した出来事に対して、いいね!の数が少なくて落ち込む、否定的なコメントにイライラしてしまうといったことは誰しも経験があるのではないでしょうか。
他にも、最近ではマイノリティとされていたLGBTQ+や人種などの問題をメディアを通して見聞きする機会が増えています。一人ひとりがあらゆる性質を持ち、全く同じ人というのはこの世の中には存在しません。
それにも関わらず、自分と異なる性質や意見を持つ人に対して攻撃的になってしまったり、自分が人と違うことに萎縮して悩んでしまったりするのです。0か100かの極端な考え方では、その場限りの解決はできても、この先の将来を見据えた解決方法にはなりません。
サステナビリティ(持続可能性)という言葉が一般的になった今、あらゆる多様性について、幅広く捉えて柔軟に対応していこうとする心掛けこそが、これからの社会に必要となってきます。
「ヨーガスートラ」から学ぶ「観る者」と「観られる物」の違いとは?
ヨーガスートラ 2-17
ドラシュトゥル・ドゥルシャヨーホ サンヨーガハ ヘーヤ・ヘートゥフ
本当の自分と、自分ではないものを混同することが、苦悩の原因です。
私たちは、見る・聞く・触れる・嗅ぐ・味わうといった五感を通して外の世界を知り、判断して行動をしています。ヨガの智慧として、心や感覚はあくまで道具にしか過ぎず、我々の内側にはその心や感覚で得たものを観る存在があるとしています。
その観る者を「ドラシュター」、観られる物を「ドゥルシャ」とヨーガスートラでは表現しています。「ドラシュター」は変化することがない観ている存在、つまり本当の自分。「ドゥルシャ」は瞬間ごとに変わり、観察される対象物として観られている物です。
観る者(ドラシュター)である自分の本質は、変わるもの(ドゥルシャ)に振り回されない不動のものです。反対に心は瞬間ごとに移りゆくものなので、自分の本質ではないととらえます。
「ヨーガ・スートラ」にもあるように、コロコロと変わる心の動きが本当の自分と考えてしまうことが苦悩の原因になるのです。そういった心の動きに意識を向けて、認識する練習が「瞑想」です。
瞑想やマインドフルネスが注目されている理由の一つとして、いつもせわしなく動き回る心の動きに意識を向けることで、ドラシュター(観る者)である自分の本質を取り戻し、ドゥルシャ(観られる物)と区別する力を養うことができるからです。
自分を俯瞰で見ると人にも自分にも寛容になれる?「メタ思考」とは
ミスやトラブルが起きたときに、まずは落ち着いて冷静になることが大切です。大きく深呼吸をして、一度立ち止まります。冷静な判断を下すときに、自分が今どういう状況にいるのかを俯瞰的な目線で観察します。頭上にもう1人の自分がいて、行動している自分を観ているイメージです。
認知していることを認知する、このような思考を「メタ認知」と呼びます。
日常の中のふとしたときにも「メタ認知」を使うことで視野が広がって冷静な言動や考えを持つことができます。
先述したように、頭上にいて自分を観察している自分(ドラシュター)と、行動している自分(ドゥルシャ)がいる状態です。「メタ認知」を意識すると、あわてずに冷静な行動ができるだけでなく、広い視野を持つことができます。
自分と異なる意見や考えに対しても、俯瞰で自分を見ることで批判や怒りにまかせた行動を起こさない抑止力が働きます。そして、「意見が違うから私はイライラしているんだな」と冷静に自分を観ることができるのです。
「メタ認知」の思考を持つと、思い込みや思考の癖から離れ、もしかしたら自分は間違っているかもしれないという自分の価値観を疑うことができるようになります。
つまり、視野が広がるので発想も自由になり、人にも自分にも寛容な心を持てるようになります。
「メタ認知」の思考を持つために、日頃から意識するトレーニングをしよう
ある日突然「メタ認知」を意識することは難しいでしょう。では、どのようにして「メタ認知」の思考を持つことができるのでしょうか。
ヨガも「メタ認知」を活用して行なうことができます。一つひとつのポーズに対して、体の状態や心の動きを観察します。
昨日できなかった動きが今日はできるようになった、痛みを感じる、心地よく伸びができるなど、ポーズに意識を向けて観察してみましょう。
他にも、視線を一点に定めて集中する、呼吸を観察するという方法もあります。この場合は、ポーズを取るときはもちろん、瞑想のときにも行なうことができます。
瞑想時は特に心の動きがわかりやすく、めまぐるしくあらゆる考えが思い浮かんでは消え、また別の考えが浮ぶことの繰り返しなので、「メタ認知」の練習になります。
メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問
細谷 功 (著)
「メタ思考」トレーニングで俯瞰の目を鍛えよう
メタ認知を利用した考え方は、ビジネスの場でも有効です。「メタ思考トレーニング」の本の中では、メタ認知を実践するための思考方法「Why型思考」と「アナロジー思考」の二つが紹介されています。
1. Why型思考
「なぜ?」という視点で「考えることを考える」という、メタ思考の基本中の基本のとらえ方です。
例えば、「○○について調べて報告してほしい」と依頼されたときにあなたはどのような対応をするでしょうか?
○○についてインターネットで検索したり、その情報に詳しい人に尋ねたり、関連書籍を調べたりといった行動を起こす人がほとんどでしょう。それとは別に、「そもそもなぜ依頼者は○○について調べてほしいのだろう」という疑問を抱いた人もいるかもしれません。
前者は具体性や実行重視のHow型思考、後者は目的重視のWhy型思考と呼ばれています。メタ思考に近しいのはWhy型思考で、問題を解決するときにはまず、問題そのものについて考えます。
なぜ?と問いかけることで、視野を狭めることなく広い目線で物事をとらえられるようになります。
2. アナロジー思考
アナロジーとは類推、類似のものから推論することを意味します。ある物事に対して似ているものから借りてくるというとらえ方です。
いわゆるパクリと呼ばれる見た目がまったく同じような具体的なものではなく、アナロジーは目には見えない部分での関係性や構造的なところでの類似性を用いる方法です。
あくまで抽象的にとらえることを重視し、別のカテゴリーのものからでも似ている部分を探し出すことでメタ思考を鍛えることができます。
例えば、自転車の乗り方を覚えたときの経験や教訓を思い出し、それを英会話の学びに応用できないかと考えます。自転車では補助輪を使って、徐々に慣らしていったという経験を、英会話ではアプリや教材を使って簡単なリスニングから慣れていくというアイデアにつなげることができます。
アナロジー思考は、問題や課題を目の前にしたときに、自分の得意な分野ややり方と類似しているところを応用することができます。
自分自身を俯瞰して、広い視野を手に入れよう!
自分が今、どういう状態にいるのか、どんな考えを持っているのかを認識する「メタ認知」を意識するだけで、冷静な判断を下すことができます。
なぜ今自分がこの感情を抱いているのか、なぜこの行動を起こしているのか、それは過去にも同じようなことがなかったか、などに意識を向けることで、より高く広い目線で物事をとらえられるようになります。
そして、自分自身を俯瞰してとらえられるようになると、他人にもおおらかな心持ちで対応できるようになります。
これからの時代、物事はさらに細分化されて多様性に溢れてくるでしょう。その一つひとつに固執して振り回されてしまっては、ストレスが溜まる一方です。自分の考えとは異なることでも、メタ認知の意識で「そういう考えもあるんだ」と受け入れられるようになると人とのコミュニケーションも円滑に進みます。