もくじ
2019年春~秋にかけ、日本で大規模なクリムト(グスタフ・クリムト)展が開催され、多くの人が訪れました。
世界にはさまざまな名画が存在し、名画といわれる作品はやはり生で観ると胸を打つもの。その中でも特に好きな絵画が個人個人でそれぞれ違うでしょう。
今回は、そんな名画のひとつとして特に女性に愛される「接吻」を生み出したクリムトについてその魅力や代表作について解説します。
芸術の秋。たまにはゆっくり美しい絵画の世界へ
いよいよ本格的な秋到来。秋といえば食欲の秋・読書の秋・そして芸術の秋ですね。豊富な秋の旬の食材はじんわりほっこりと身体に染み、自然の風景もまた色が変わり美しいもの。
そんな秋にはじっくりと自分の感性を高め、磨きたいものです。
コスメやファッション・ボディケアなどの外的な美もとても楽しいですが、ゆっくりと自分だけのために、美しいものを観て想像を巡らせることもやはり豊かな心や感性を育むために必要なことといえます。
美しい音楽を聴いたり美しい絵画を観ること、これらはダイレクトに他者へ伝わるものではありませんが、長い時間をかけてやはりその人の持つ美しさを培います。
心静かな秋のひとときにはぜひそんな風に感性を深めてくれる絵画に触れてみたいものです。
女性本来の美しさ。内面から生まれる美しさ・そして女性の美しさを余すところなく表現する画家の一人にクリムトがいます。
オーストリアの画家・クリムトとは?
クリムトについてほとんど知らない人でも多分一度はどこかで「接吻」という作品を目にしたことがあるのではないでしょうか。
全体的にゴールドの色彩が散りばめられた中、男女が抱き合いキスをしている作品です。
この作品は世界中で名画として愛されていますが、これを描いたのが中央ヨーロッパ・オーストリアの画家「グスタフ・クリムト」。
クリムトは19世紀末から20世紀という世紀末にオーストリアの首都・ウィーン活躍した画家です。
目の前に存在するものをモチーフとする印象派から人間の内面・神秘などを描く象徴主義から多大な影響を受け、自身の作品も愛や性・官能・生と死が特に女性を通して表現されています。
美術学校で絵画を学び、邸宅や建築物の装飾画を手がけ海外に派遣されるなどかなり良く認められていましたが、父親と弟の死によってそれまでの保守的な作品で良いのかと悩み、仲間とともに「ウィーン分離派」を造りました。
分離派の展覧会活動などを通して自分のスタイルを表現し確立していく中で、これぞクリムト!といえる「金」を彩る黄金様式の名作がさまざまに生み出され、その後に金ではなくカラフルな色使いを多様する色彩様式の作品が生まれます。
自分には絵心がない・女性にしか興味がないというのは2019年のクリムト展にて説明されていたクリムトの言葉です。
生涯独身を通しながら、女性モデルが一晩に15人ほども滞在することもあり、非嫡出子も複数いたとされるクリムト。
多くの裸婦モデルが愛人関係にあったとされますが、その中でも「エミーリエ・フレーゲ」という女性が著名な愛人とされ、クリムト末期の言葉も「エミーリエを呼んでくれ」というものだそうです。
そしてもっとも有名な「接吻」の女性モデルはこのエミーリエでした。
女性を通して表現される官能・生と死
なぜクリムトの絵画は人の心を・とりわけ女性の心を打つのでしょうか。接吻を観た時にはしばらくそこから動けなかったという声は多数あるでしょう。
クリムトの絵画には赤ちゃんから老婆まで、さまざまな世代の女性が実に多く描かれており、裸婦であってもゴージャスな洋服を纏っていても艶めかしさがあり、天使であっても悪魔の象徴であってもそれは変わりません。
クリムトが女性という存在を愛してきたから、男性が外から観るしかできない女性の感情から生まれる表情の描写ができたのでしょうか。
一見した時の色彩のハッと目を引く美しさとデザイン性・弟である彫刻師エルンスト・彫金師ゲオルクの創る額縁との一体感を感じるおしゃれさ。
そして女性のさまざまな表情が表す官能・切なさ・祈りと願い・醜悪さ・退廃・子を守る愛・男女の愛に没頭する様子・そして死。
女性の一生にはさまざまなシーンがあります。女性ならではの気持ちを味わうことがないのに、実に明確にその気持ちから生まれる表情を描いたことも、クリムトが女性の心の深い部分を掴む一因かもしれません。
クリムトの代表作
そんなクリムトの代表的な作品をご紹介します。
ユディットⅠ
1901年に制作された油彩・ウィーンのベルヴェデーレ宮殿所蔵の絵画。
旧約聖書外伝に描かれるユディットという女性が、自身の町を襲うホロフェルネスの首を取り、片手に持って官能的な表情を浮かべる作品。
クリムトの黄金様式の初期作品です。
この首を取るためにユディットは裸でホロフェルネスを誘惑するのです。
ダナエ
ダナエとはギリシア神話に出てくる女性。この作品はまた特に女性の美と官能が描かれています。1907-8作・ヴュルトレ画廊所蔵。
美しいダナエは父によって塔に閉じ込められていましたが、そのダナエに目をとめたゼウスは黄金の雨へと変化し、塔に入り込んでダナエと交わる、という絵画です。
ダナエの脚の向こうに描かれる金がゼウスが変化した黄金の雨。それによってダナエが恍惚の表情を浮かべています。
ベートーヴェンフリーズ
クリムトとその仲間が本拠地としたウィーン分離派会館(ゼセッション)に描かれるベートーヴェンフリーズは、同じくオーストリアにも生きた大作曲家・ベートーヴェンの有名な交響曲第九番をモチーフとしています。
長方形の一部屋・長い面2つと短い面1つの計3面に描かれており、「祈りと憧れ・敵対と悪・歓喜」が表現されます。
オリジナルは1901-1902年にコの字型の壁画として描かれ、今回日本に来たのはその複製。
もし時間とお金に余裕があればぜひウィーンのゼセッションへ。ものすごく静かな環境の中、ゆっくりと思いのままに時間を過ごすことができます。
接吻
クリムトともっとも有名な作品・接吻(Kiss)。ウィーンのベルヴェデーレ宮殿所蔵です。
ベルヴェデーレは庭も美しいところで美術館内も空気感の良いところ。さまざまな絵画を眺めて行き着くのがクリムトの絵画。そして接吻は大きな絵です。
筆者はやはりその美しさと切なさに魅せられ、自分の心の中でベストオブ名画となりましたが、さまざまな知人を連れていっても皆この接吻の前から動きません。
静かで切なく、究極の美のように感じるのです。金彩も表情も雰囲気も、とにかくダイレクトに心の奥底に届きます。
一生に一度は観ておきたい。クリムト展も国内でたびたび開催
今回はクリムトのおすすめ絵画と魅力をお伝えしました。
現代がさまざまな興味に尽きないほど新しい魅力的な何かを生み出していても、女性にとって普遍の憧れと美は過去の産物にもしっかりと表現されています。
クリムトのさまざまな作品はウィーンのベルヴェデーレ宮殿や分離派会館(ゼセッション)などに展示され、日本でも不定期で展覧会が開催されます。
名画というのは本で学習したり、テレビなどの映像で取り入れて魅力的!と思っても現物はその領域をはるかに超えるパワフルさを持ってきます。
名画はぜひ本物で観てください。恋する人に特におすすめなクリムトですが、好きな人に教えて貰っても、その気持ちをしっくりと自分に馴染ませるために「1人でゆっくり」観ることをおすすめします。