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臨床心理士、公認心理師、マインドフルネススペシャリスト
夏季うつってなに?原因と症状
夏季うつとは、「季節性感情障害(SAD)」の一種です。夏に心身の不調が生じることから、わかりやすく夏季うつと呼ばれています。
まずは夏季うつについて詳しく解説しますね。
夏季うつとは季節性感情障害の1つ
季節性感情障害(SAD)とは、うつ病の仲間であり、特定の季節のみに抑うつ症状が始まる症状が特徴的な病気です。
冬季うつ病は一般的に知られていますが、近年は暑い日々が長く続くことから夏季うつも注目されています。
夏季うつが発症する時期は、春から初夏であり、秋以降に抑うつ症状が治まるサイクルを2年以上繰り返すことが確認されてはじめて診断されます。
夏季うつの原因
夏季うつの原因は、まだ研究が不十分という指摘もあります。
理由は、季節性感情障害の診断基準や研究が冬季うつメインだからです。ここでは、2024年7月時点で原因としてあがっているものを4つ紹介します。
原因1.暑さ・強い日光
夏季うつの原因の一つは概日リズムの乱れの影響といわれています。
24時間周期のリズムの信号を発信しているサインのこと。夜になると眠くなるなど、一定の時間で自然に睡眠を求めるサイクルを指し、生物時計ともいわれる。
夏特有の天候や環境の変化は、私たちが思っている以上に身体へ大きなストレスを与え、自律神経の乱れを生じさせます。
また、日照時間が長いことで夜更かしをする人も多く、生活リズムが乱れやすいことも夏季うつの原因の1つであるようです。このように、暑さや強い日差しの影響は夏季うつ病にさまざまな方面から影響を与えています。
原因2.冷房の当たりすぎ
冷房は夏バテでよくある原因の1つですが、夏季うつ病とも関連性が深いといわれています。
冷房がうつ病を誘発させる理由は、極端な温度差と「冷え」による心身への負荷です。
冷房の効いたオフィスから窓のない廊下に出るだけでも温度差がありますし、外回りなど外出する機会のある人はより激しい温度差を体感しやすい状況にあるでしょう。
一方で、ずっと冷房の効いた室内にいることがいいわけではありません。
冷えは、血行不良を引き起こさせる要因となり、自律神経の乱れとも深く関係しています。自律神経のバランスを安定させるためには、身体を温めることがよいとされているのです。冷房の効いた室内にいれば大丈夫なのではなく、直接当たらないようするなど工夫が必要となります。
原因3.水分やミネラル不足
暑さや冷房のほかに、水分不足や栄養不足の影響も大きいです。みなさんの多くが、夏に食欲低下した経験があるのではないでしょうか。
そうめんばかりになったり、朝食を抜くようになったり、冷たい食べ物や飲み物で済ましたり、心当たりのある人は多いと思います。
冷たい飲み物を飲んでいれば、水分不足が補えるわけではありません。
熱中症対策として、冷たい飲み物は体内に吸収されやすいですが、飲むドリンクの選び方や飲む量によっては身体にダメージを与えます。できれば、夏場も常温のお水を小まめに飲むようにしましょう。喉が渇く前に小まめに飲んでいれば、冷たい飲み物ではなくても夏バテや夏季うつだけでなく、熱中症も防げます。
常温の小まめな水に加えて、塩分補給や適度な糖分補給をすることも忘れずに行いましょう。熱中対策は夏季うつ対策にもなるので、試してみてください。
原因4.セロトニン不足
うつ病の原因の1つが、セロトニン不足です。
セロトニンとは、神経伝達物質であり、不足していると疲労やストレス、イライラなどを感じやすい一方で、意欲低下や抑うつ症状を引き起こすといわれています。
夏は、レジャーが楽しい季節ですが、なかには日差しや暑さに弱い人が外出を控えることもあるでしょう。日差しを避けすぎることによって、セロトニンを分泌する機会が減ることも夏季うつの原因の1つなのです。
夏季うつの症状
季節性感情障害は、精神障害の診断と統計マニュアル(以下、DSM-5)によると抑うつ障害群の1つとされています。
うつ病の症状のなかでも、以下の症状が夏の時期に目立つ場合は夏季うつ病の可能性があるでしょう。
・好きなことに関心がなくなる
・集中力低下、思考力低下
・無価値感
・自殺などについて考える
など
・不眠
・食欲減退
・不安や焦燥感
・疲労感
上記の症状が1年中、生じている場合は夏季うつ病(季節性感情障害)ではなく、うつ病やほかの精神疾患の可能性があります。
2年ほど連続して同じ時期のみ発症している場合は、夏季うつ病の可能性が高いでしょう。
夏季うつと夏バテの違いは?
夏季うつ病と夏バテは似た症状を持っています。
夏バテと夏季うつ病の違いを知って、抑うつ状態の悪化に気をつけましょう。
夏バテとは身体の不調がメイン
夏バテは、食欲不振や疲労感などの症状が現れます。夏季うつと同様に自律神経の乱れがありますが、身体症状がメインです。
食欲不振や疲労感のほか、汗をかかなくなったり、冷たいものを頻繁に欲するようになっている人は夏バテの可能性が考えられます。
夏季うつと夏バテの共通点
夏季うつと夏バテの共通点は、身体症状すべてです。
たとえば以下のような症状がある場合は、夏季うつもしくは夏バテの可能性が考えられます。
・疲労感(疲れがとれない)
・眠れない
・喉が渇きやすい
・頭痛がある など
これらの症状が、徐々に生じる場合は夏バテもしくは夏季うつ、急激に生じる場合は熱中症の可能性が考えられます。
夏季うつと夏バテの違い
夏季うつと夏バテの違いは、精神症状です。
夏季うつ病は、身体症状とともに次のような精神症状が出現します。
・気分の落ち込み
・やる気が出ない
・頭がぼーっとする
・休んでもリラックスできない など
夏季うつ病は、交感神経が優位になりすぎてしまうことから、睡眠に大きな影響が起こります。
「夏を楽しもう!」という気持ちも素敵ですが、副交感神経優位になるような時間も意図的に作ってあげる必要があるのです。
夏バテだと思っている人のなかで、ぼーっとする時間や身体の疲れがとれない感覚がある人は、夏季うつの可能性も疑いましょう。
夏季うつかも?お疲れ度チェックリスト
夏季うつ病になっている、もしくはなりかけている可能性をチェックしましょう!
□水分を飲む頻度が増えた(口の渇きがある)
□食欲が低下し、胃もたれしやすい
□気持ちに余裕がなくなっている
□落ち込む頻度が増えた
□不安や焦りを感じやすくなった
□寝ても途中で起きてしまう
どうでしたか?半分以上当てはまっていたら要注意!この後紹介する対策で、悪化を防ぎましょう。
夏季うつの原因は暑さと冷え!対策4選
夏季うつは、暑さと冷えが原因の1つ。自律神経の乱れを生じさせないためにも、次の4つのことに気をつけましょう。
対策1.体調に合わせた生活スタイル
同じ気温の日であっても、体調も同じとは限りません。
頭痛がある、食欲がない、なんだかぼーっとするという日は、そんな日に合わせた過ごし方を取り入れましょう。
仕事や家事など、なかなか自分だけの予定ではないこともあると思いますが、「明日に回せること」「誰かにお願いできること」などはきっとあるはずです。
自分の体調に合わせて無理なく過ごすことは、メンタル不調と身体不調の両方が生じる夏季うつ病対策には欠かせません。
対策2.暑さと冷えのバランスを整える環境調整
暑いと冷房を効かせたり、冷たいものをたくさん飲みたくなったり、薄着になったりすると思います。
熱を逃がすことは夏季うつ対策だけでなく、熱中症対策にもなるでしょう。しかし、暑いと涼しい(冷え)の差が激しくなると人の身体は自律神経の乱れを起こしやすくなります。
また、冷やしすぎることも身体のさまざまな不調につながるので要注意。
たとえば、むくみや便秘、肌荒れ、腰痛などの症状が生じやすくなります。女性の場合は生理痛や生理不順、不正出血などの原因にもなるので、身体の冷やしすぎにも気をつけましょう。
男女ともにカーディガンや薄手のストール、ひざ掛けなどを用意しておくといいかもしれません。
対策3.疲れを防ぐ食生活の改善
夏は水分やミネラルの不足以外に、タンパク質やビタミンも不足しやすいため、こまめな水分と共に身体にいい食材も積極的に摂取しましょう。
慢性的な疲労や睡眠不足は、たんぱく質やビタミンの摂取量が足りない場合にも起こります。エネルギーが不足するなかで、夏の暑い日々を過ごすのは大変ですよね。
できれば、朝食と昼食でビタミンとタンパク質をしっかり食べてください。
特にビタミンのなかなら、ビタミンBは夏バテ予防に重要な力をもたらしてくれます。夏に食べるなら豚肉や枝豆、まいたけなどがおすすめです。ミネラルが多く含まれた藻類や魚介類との相性もよいでしょう。
また、漢方医学の観点では夏に「酸味」「薬味」「水(すい)を巡らせる」食材をとることが推奨されています。
漢方医学おすすめ食材
夏は食欲がなくなりやすいからこそ、身体と心によい食事を心がけてくださいね。
薬味:生姜、みょうが、シソなど
水(すい)の巡りによい:トマト、キュウリ、ナス、スイカなど
タンパク質やビタミンBの食材との相性もいいものばかりですので、積極的に食べて元気を取り戻しましょう!
対策4.疲れをしっかり取る睡眠の質向上
睡眠の質の向上は、「ただ眠ればいい」ではありません。
・軽い運動を日中に行う
・過度なストレスをかけない
・夜はリラックスできる環境を整える
これらは睡眠の質の向上に欠かせないものです。
近年、日中に35度超えが当たり前となってきてしまいました。
夏の軽い運動は、朝と夕方の少し涼しい時間に「軽く汗ばむ程度」がおすすめです。夏の散歩は無理なく、数分でもいいですし、体力によっては日光浴でも十分でしょう。
もう夏季うつになっていたら?
夏季うつ病の診断基準の1つに、2年以上うつ病が春夏の時期に開始され、秋冬には症状がなくなるという周期性があります。
去年も春夏は不調だったなと感じる人はすぐにでも受診すべきでしょう。
しかし、周期性がなくてもメンタル不調がある場合は、抑うつやほかの精神疾患の可能性も否定できません。身体症状のみの人は、内科などでもいいかもしれないですが、メンタル不調がある方は精神科や心療内科へ受診してください。
うつ病は早期発見と早期治療が重要です。我慢しすぎることで、回復しにくくなったり、ほかの精神疾患になる可能性も高まります。早めに受診して、過ごしやすい日々を手に入れましょう。
夏季うつは原因がわかっても完全には防げない!だからこそ気をつけよう!
夏季うつ病は、季節性感情障害(SAD)の一種です。夏バテと見分けがつきにくいところもありますが、本来は深刻な精神疾患ですので、早めの受診をおすすめします。
夏季うつ病の対策は、夏バテや熱中症予防にもなりますので、今は症状に心当たりのない人も今日から対策を取り入れた生活を送るようにしましょう。
また、今回の記事を読んで「夏だけじゃないかもしれない」「秋になっても気持ちが切り替わってないかも」と感じた人は、抑うつ状態やうつ病の可能性があります。なるべく早めに医療機関へ受診してくださいね。
夏季うつ病を含む精神疾患の対策は、ストレスをため込まないことだけではありません。食事や運動、睡眠も重要です。YOGAHACKのさまざまな記事を参考にしながら、自分らしい快適な日々を手に入れましょう。
参考文献
American Psychiatric Association (著)「DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引」,医学書院,2014年
American Psychiatric Association (著)「DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル」,医学書院,2023年
季節性感情障害に気づいて治療をするためのヒント - MSDマニュアル家庭版