もくじ
「多様性」を考える絵本が注目を集める理由
社会のさまざまなシーンで注目を集めているワード「多様性」。
世界にはさまざまな人々が暮らしていて、子どもたちは保育園や小学校などで、さまざまな仲間に出会います。成長して行動する範囲が増えると、もっといろんな人に出会うことでしょう。そこで自分とは「違う」相手に気づくことがあると思います。
世の中にはいろんな人がいて共存しているということを、子どもの頃から学んでいけたらいいですよね!そこで役立つのが「絵本」です。
子どもたちは絵本から、価値観や文化についてを学びます。幼少期に得た知識は、これからの人生を歩んでいくなかで重要な基盤となります。
今では、多様性に関する内容を扱う絵本も増えてきました。できるだけ早くから、子どもたちに多様性について学ばせたいと願う親御さんが増えてきたのが背景にあります。
今回は、多様性について考えるきっかけとなる絵本13冊を、それぞれの分野「性の多様性」「人種的多様性」「障害」「生物多様性」にわけてご紹介します。大学で絵本研究をおこなった筆者が、およそ30冊のなかから厳選した「ぜひ読んでほしい絵本13冊」をお届けします!
多様性に触れることの大切さ
相手を受け入れる気持ちが大きくなる
異なる価値観や文化を持つ人と触れ合うことで、自分が思っていたよりも、多くの共通点を相手から見つけられるかもしれません。すでに持っていた視点が、変化する可能性があるのです。
異なる考えや文化を持つさまざまな人と触れ合うことで、自分が持つ価値観や文化が常に正しいのではないことに気づくとともに、相手を受け入れる気持ちがより大きくなることが考えられます。
自分のことをより深く理解できる
異なる人と触れ合って比較することで、自分のルーツや大切にしている価値観が見えてくることがあります。
多様性を受け入れるとは、違いを受け入れるということですが、自分のなかに相手の文化を入れ込むという意味ではありません。違いを受け入れて、自分の文化や価値観も大切にすることを意味します。
多様性に触れることで「相手がいるから自分のことをより深く理解できる」「異なる価値観や文化に触れることができたから、自分のことをより深く理解できる」と感じるようになるでしょう。
さまざまな視点から物事が考えられる
多様性に触れることで、さまざまな視点から、物事を捉えられる力が身につきます。ひとつの方向でしか物事が考えられないと、失敗を防ぐことができなかったり、何かを始めるにも想像力に欠けたりしてしまいます。
さまざまな背景を抱える人と触れ合うことで、思いつかなかったアイデアが生まれたり、広い選択肢を持ったりすることで新鮮なものを生み出すことができるでしょう。選択肢が増えるということは、あらゆる角度から物事を見て分析し、判断することができるようになるということ。これからの人生に役立つスキルですよね!
絵本を読むメリットとは?
話しづらいトピックにも向き合える
絵本は、親子で話しづらいと感じるトピックにおいても話し合う機会を提供してくれます。
「性や人種問題などのトピックについて子どもに話しづらい」と感じる親も多いでしょう。しかし、これらのトピックは、子どもたちの将来を考えると、伝えておきたい内容でもあります。
やわらかい絵とわかりやすい文章を使いながら、性や人種、戦争などのトピックについて触れている絵本があります。そのような絵本を活用することで、取り上げるのに少し躊躇してしまう内容についても、親子で話し合うことができるのではないでしょうか。
子どもの語彙が増える
絵本は、子どもの語彙力向上に効果があります。絵本にはさまざまな語彙が登場するため、親や周りの人が普段使うことのない言葉に触れることができます。
言語に触れる機会が増加することで、子どもたちは自然に言語を習得していくことができるでしょう。絵本のいいところは、「勉強をしている」という感覚がないところですよね!楽しみながら言語を習得するには絵本が最適です。
集中力が身につく
読み聞かせを習慣化させると、子どもは集中力を身につけていきます。はじめは集中できない可能性も考えられますが、絵本の読み聞かせを続けることで集中力を身につけていくでしょう。
慣れてくると、物語がどんな展開で進むのかを理解しはじめたり、文字や絵への抵抗感も少なくなってくるため、最後まで絵本を読み終えられるようになると考えられています。
子どもの落ち着きがないと悩んでいる方や、子どもの集中力を養いたいとお考えの方は、絵本の読み聞かせをおすすめします。
心が豊かになる
絵本を読むことで、心を育てることができます。読むことを通して、キャラクターの心情を探ったり、同情する気持ちが芽生えるためです。
キャラクターの気持ちを理解することで、他者を思いやれるようになり、周囲から愛される人間に成長するでしょう。
性の多様性について考える絵本
いろいろいろんなからだのほん
◯小学校低学年〜
出典:amazon
あらすじ
生まれてからおとなになるまで「からだ」は成長し、変化する。そのあとも死ぬまで変化し続ける。人間の「からだ」についていろいろな疑問や考えるヒントを楽しいイラストで紹介する絵本です。自分の「からだ」がどんなにすばらしいか、この絵本を読んで考えてみよう。
赤ちゃんから大人に成長し、死ぬまでの変化や、体の機能について紹介しています。読み終わったあとは、自分の体の素晴らしさに感謝できることでしょう。ジェンダーや身体の障害についても取り上げている、多様性について学ぶことができる内容となっています。
王さまと王さま
◯対象年齢:小学校低学年〜
出典:amazon
あらすじ
王子さまとお姫さまの物語でなく、王子さまと王子さまが結ばれるお話があっていい──。LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)をテーマにした絵本。
英語やスペイン語など9言語に翻訳されている、話題のLGBT絵本です。
これまで描かれてきたラブストーリーは、お姫さまが王子さまと結ばれるという、「異性愛」のお話ばかりでしたよね。しかし実際には、同性に恋をする人もいれば、恋をしない人もいます。
「異性を好きになることのように、同性を好きになることも不思議ではない」「いろんな愛の形があるのだ」ということを教えてくれる絵本です。
ピンクがすきってきめないで
◯対象年齢:4歳〜
出典:amazon
あらすじ
女の子はピンクが好きじゃなくちゃ、だめ?女の子らしく、男の子らしく、っていうけど、でも、その「らしく」ってどんなこと?黒が好きで、昆虫や化石やクレーンが大好きな、ある女の子の心のさけび。まっピンクの表紙ですが、ピンクが好きではない子のお話です。
ジェンダーに基づく偏見について学ぶことができる絵本です。
登場人物の女の子の立場から、世の中にある性的偏見をみていきます。同い年くらいの子が「なぜ」と考えていることに対して、絵本を読む子どもたちも「なんでだろう?」と一緒に考えることができる内容になっています。
「女の子だからこれが好き」とか「男の子なのにこれが好き」とかではなく、「この人だからこれが好き」と思える思考回路を育ててくれる絵本です。
レッド あかくてあおいクレヨンのはなし
〇対象年齢:4歳〜
出典:amazon
あらすじ
レッドは、赤いクレヨン。でも赤く塗るのが得意ではなくて…。誰もが本当の自分の色を探している。ありのままで輝くために、子どもにも大人にも読んで欲しい絵本です。
アメリカ図書館協会のレインボーリスト(LGBTの青少年向け推薦図書)に選ばれた絵本です。LGBT教育向けの絵本というよりは、「さまざまな分野の多様性」について考えるきっかけとなる絵本だと感じました。
赤のラベルが貼ってあるのに、赤の色が出せないクレヨンからは、ありのままの自分で輝くことの素晴らしさを教わります。
人種的多様性を理解する絵本
いっしょにおいでよ
◯対象年齢:小学校初級~
出典:amazon
あらすじ
たくさんの人たちが睨みあって怒っている。この国からでていけと、大声で怒鳴っている。世界のあっちでもこっちでも……。女の子はテレビのニュースを見ていて怖くなりました。「こんなのっていやだ。どうしたらいいの?」とお父さんに聞きました。すると、「いっしょにおいで」と、お父さんは女の子を地下鉄の駅に連れて行ったのです。
この絵本から伝わるのは、私たちの力は小さいかもしれないが、無力ではないということ。世界で起こっている問題に対して、「自分には何ができるのだろう」と感じる経験をするかもしれません。世界を変えるためには、自分のできる範囲で世界とつながることが大切なのだと教わります。
いろいろいろんなかぞくのほん
◯対象年齢:小学校低学年〜
出典:amazon
あらすじ
むかしの本に出てくる家族はたいてい同じだけど、実際の家族にはいろいろな形がある。家族構成や住んでいるところ、仕事や休みの日の過ごし方、お祝いごとも家族によってそれぞれ違う。どんな気持ちで暮らしているかも違う。さあ、きみのかぞくはどうかな?
上記でご紹介した『いろいろいろんなからだのほん』と同じシリーズの絵本です。
少し前までは、家族のあり方が決まっていたような気がしますよね。その「決まり」から少しでも外れると、いじめられたり仲間外れにされたり... それが怖くて周りに合わせようと一生懸命になって疲れてしまう経験をする子も多いようです。
しかし今は、少しずつですが多様性を認められる時代になってきました。この絵本にも、お休みの日の過ごし方の違いや親が同性の家族、子どもが養子の家族などさまざまな家族が登場します。「違ってあたりまえ。違うからこそ素晴らしい」と思わせてくれる内容になっています。
筆者の一押しポイントは、「だれかひとりが はたらきにでる いえもある」の絵。お父さんが子守をする担当で、お母さんが働きに出る姿の描写になっていて、性別役割分業の脱却に貢献する絵だなと思い、感心しました。
てをつなぐ
◯対象年齢:2歳〜
出典:amazon
あらすじ
ぼくはかあさんと、てをつないだ。かあさんはいもうとと、いもうとはとうさんと、とうさんはおばあちゃんと…、つぎは誰の手かな?つないだ手と手は、世界中の人たち、さらに地球上の生き物たちへと、どんどんつながって、またぼくのもとへと戻ってきます。"てを つなぐと あったかい てを つなぐと うれしくなる" 小さな手のなかにある、大きな喜びを伝える絵本。
家族が手を繋ぎ、そこからどんどん手を繋ぐ相手がひろがっていくお話です。いろんな職種の人や世界中の人々、動物たちと手を繋ぐ姿が描かれており、自分が多くの人と関わっているのだと実感できる内容になっています。
1人じゃなくて、誰かと繋がって生きているのだと感じさせられる絵本です。
わたしたちだけのときは
〇対象年齢:小学校低学年〜
出典:amazon
あらすじ
おばあちゃんは子どもの頃に家族のもとを離れて、家から遠く離れた家に行くことになりました。そこではみんなが同じ制服を着せられて、髪を切られ、自分の言葉で話すことを禁じられました。「どうしてなの?おばあちゃん」と孫が祖母に問いかける形で進んでいく物語。カナダ先住民族への同化政策の歴史を描く、カナダ総督文学賞を受賞した絵本です。
民族浄化にまつわるお話です。物語に出てくる子どもたちは、ネイティブアメリカンの若者を同化教育する目的で建てられた「寄宿学校」に入れられます。
別の文化や言語を無理やり押し付けられる子どもたちをみると、胸が張り裂けそうな気持ちに...
現代でも起きている民族浄化の問題と向き合うきっかけになる絵本です。
障害を考える絵本
さっちゃんのまほうのて
〇対象年齢:3歳〜
出典:amazon
あらすじ
先天性四肢欠損という障害を負って生まれたさっちゃん。傷つきながらも右手の指がないという障害を受けいれ、力強く歩き始める。
絵本のなかには、障害を「個性」だととらえて素直に受け入れるさっちゃんの姿があります。さっちゃんの障害を前向きに捉える姿からは希望をもらえることでしょう。登場する周囲の人々の向き合い方にも注目です。障害がある子もない子も大人も、全ての人に読んでほしい絵本です。
ボクはじっとできない
〇小学校低学年〜
出典:amazon
あらすじ
ADHD(注意欠陥多動性障害)の男の子は、なぜ自分は落ち着きがなくて、失敗ばかりなんだろうと考えていました。そんなある日、すばらしい解決策を思いついて…
障害を否定するのではなく、環境に適応するための対処方法を考えることの大切さを教わる1冊です。ADHDのある子どもが、アイデアが浮かぶ自分の強みを活かして、自分の課題に気づき、解決方法を発見し行動に移す姿が描かれています。
生物多様性について考える絵本
ハッピーハンター
◯対象年齢:3歳〜
出典:amazon
あらすじ
勇ましい格好のハンター姿に憧れたボビンさん。ある日、同じ服と大きな銃を手に入れて狩りに出かけました。森で出会う様々な動物たちに銃を向けますが、いつもしくじって逃げられてしまいます。ボビンさんの本当の狙いは何なのでしょう?
ハンターと動物の心温まる交流を描いている絵本です。ハンターと聞くと、動物を撃つ人物を思い浮かべると思いますが、この絵本に出てくるボビンさんは違います。ボビンさんは「狩り」と名乗りながらも、動物を撃つことなく、ただ森を歩き回るのを楽しんでいるのが読めます。
ハンターと同じ格好をしたボビンさんを避けていた動物たちも、しだいにボビンさんに慣れ始めます。ここから読み取れるのは、「人間が危害を与えることはない」と動物たちが認識した場合、動物は人間にとって危ない生き物ではなくなるということ。そういった作者の思いが伝わってきます。
物語の最後に描かれているのは、「狩り」で狙った動物たちがボビンさんの家の周りに集まり、ボビンさんといっしょに平和な時間を過ごしている光景。終始和やかに進む物語です。
あたらしいいのち
◯対象年齢:3歳〜
出典:amazon
あらすじ
自分の群れをからはぐれてしまった『学者ヌー』でしたが、リーダーを捜していた別の群れと出会い、その群れのリーダーとなります。雨が降ったりやんだりする、緑の季節になっています。群れのなかにはあかちゃんがお腹にいる若いメスのヌーがいましたが、チーターに襲われてしまいます。学者ヌーはハイエナに襲われたときの経験を思い出しました。
野生動物たちの「偶然と運命」について学ことができる絵本です。途中、アフリカで暮らす野生動物のヌーが、チーターに襲われます。襲われたヌーのお腹には赤ちゃんが...
自然界で起こる出来事について、子どもたちに教えることができる絵本です。迫力のある絵に息をのむこと間違いなしです!
おりのないどうぶつえん
〇対象年齢:2歳〜
出典:amazon
あらすじ
動物園にいる動物たちをモンティーは逃がしてしまいました。おりからでた動物たちはいったいどうするのでしょうか。
人間と動物の共存について描かれた絵本です。物語は「動物をオリに閉じ込めなくても、人間と動物は協力しあって生きていくことができる」と、示唆しているようにも感じます。絵本のなかでは、優しい世界が広がっていて心温まるはずです!
絵本の世界から多様性について考えていこう!
絵本が伝えるメッセージを受け取った子どもたちは、生活を通してこのメッセージを思い出し、いろいろ考えたり行動を起こしたりするものです。1冊1冊に込められたメッセージは、子どもたちが大きくなっても、心に生き続けることでしょう。
今回ご紹介した13冊をお子さんと一緒に読んで、多様性について考えてみてはいかがでしょうか。