もくじ
アーユルヴェーダにおいて重要な消化の火「アグニ」
アーユルヴェーダ食事法・アグニとは
アーユルヴェーダ(Ayurveda)はサンスクリット語で、「生命の科学」という意味です。大変歴史のあるインドの伝統医学・予防医学です。
生活様式全般にわたる理論・知識をもつアーユルヴェーダの中でも、食事は特に重要です。
食事の中でも、「消化力」を特に重視し、消化を弱めない食事をする、消化力を強めることを推奨しています。消化力が弱ると、食べた物が未消化物として残り、身体に害を及ぼすからです。
アーユルヴェーダでは消化力のことをアグニ(消化の火)と呼びます。アグニが弱っていると感じたら、食生活や行動を見直し、アグニを弱める原因を取り除く必要があります。
基礎的なアーユルヴェーダの食事法とアグニについては、「アーユルヴェーダって何?ドーシャ診断とは?基礎知識編」でご紹介していますので、是非ご覧になってください。
アグニが弱い時の症状と原因・対処法
以下に、アグニが弱いと心身にどんな影響があるのか、それはどのような原因でもたらされているのか、そして、どうしたらアグニを回復させられるのかをまとめました。
アグニが弱っている時の身体の状態
- 身体が重い
- 空腹感がない。常にお腹が空かない。
- 疲労、風邪、頭痛、など肉体的な不調を感じている。
- 怒り、混乱、不安など精神的な不調を抱えている。
アグニを弱める原因
- 冷たいものを取りすぎる。
- 必要以上に食べる。
- 前に食べたものが消化しきれていないのに、また食べる。
- 食べているものが体質・体の状態と合っていない。
- ストレスを感じている。
アグニを回復するために行うと良いこと
- 一食スキップする。無理のない程度に断食をする。
- お腹が空いてから食べるようにする。
- 消化にいいものを食べる。
- 規則正しい生活をする。
- 適度な運動をする。
- ストレスの原因となっていることをやめる。
あてはまる症例はありましたか?ストレスの原因を取り除くことや、規則正しい生活をすることは、自分では望んでいても、仕事や家庭の事情によっては、抜本的な改善を、すみやかに、しかも継続的に行うことは難しいかもしれませんね。でも、生活が乱れて体調不良を自覚しだしたときに、食事を少し変えるくらいなら、できるのではないでしょうか。
ここでご紹介するキッチャリーは、アグニを弱めるような生活が続いている方、アグニが弱った時の症状に自覚のある方に最適です。まず、キッチャリーとは何か、見ていきましょう。
キッチャリー
キッチャリーとは何か
キッチャリーとは、インドのお粥の一つです。白米のおかゆに梅干し、という日本のお粥も、風邪の時などに食べますよね。お粥は体力が落ち、消化力が弱っている時にも、身体にやさしく栄養を届けてくれるのです。
「インドのお粥の一つ」と書きましたが、アーユルヴェーダでは、水分の量・固さなどお米の状態によって、お米もいくつかの種類に分かれ、それぞれに名前がついています。
お粥の種類
種類 | 状態 |
マンダ | さらさらの液状 |
ピーヤ | 少しとろみのある液状 |
ヴィレピ | さらっとした水分が多めのお粥 |
ユーシャ | トロっとしたお米のスープ。豆や野菜が少量入ることも |
オダナ | 消化にやさしいごはん |
キッチャリー | 豆や野菜をお好みで入れた栄養価が高いお粥 |
『アーユルヴェーダの簡単お料理レシピ』マイラ・リューイン著より
ちなみに、キッチャリーは北インドでの呼び名で、南インドではポンガルと呼ばれます。
どのような時に食べると良いか
前述のように消化力が落ちた時の症状を抱えている時や、風邪をひいた後の回復食として取り入れると良いです。
また、豆や野菜を変えれば、バリエーション豊かで栄養もたっぷり取れるので、お米だけのお粥では物足りないけれど、継続的に身体を優しく浄化したい時にもおすすめです。
キッチャリーのレシピ
所要時間:約30分
栄養価が高くタンパク源となるムングダルを使ったキッチャリー。お好みの野菜を入れれば、さらに栄養価が高くなります。水分を調整して、好みの固さにします。これだけで食べてもいいですが、スープやカレーと一緒に食べても良いです。
特筆すべき食材とその効能
バスマティライス
インド、パキスタン原産のお米の品種。細長い形をしていて、日本米の2~3倍ほど長く、炊くとさらに細長くなります。ぱさぱさとして、日本米と異なり粘り気がほとんどありません。ビリヤニなどご馳走料理に用いられることが多いです。
バスマティライスは日本米と比べ、血糖値の上昇スピードを表すGI(グリセミック・インデックス)値がやや低いです。血糖値の急激な上昇は、インシュリンを作る膵臓への負担が大きく、糖尿病患者などにとっても良くありません。血糖値を緩やかに上昇させるバスマティライスは、日本米よりやや安心です。
しかし、独特の香りがあり、好き嫌いが分かれるかもしれません。私個人としてはバスマティと和食は組み合わせず、アーユルヴェーダ料理の時にだけ使っています。
クミンシード
古くから用いられているスパイスで、鉄分、マグネシウム、ビタミン、ミネラルを豊富に含んでいます。抗酸化作用、消化力促進、老廃物除去などの効果があるほか、最近では肥満防止、アンチエイジングのパワーフードとして注目されています。糖分を摂りすぎると、余った糖質がタンパク質と結合し、老化物質「AGE」を生み出します。クミンには、糖の吸収を抑え、AGEの育成を阻害するだけでなく、できたAGEを減らす効果まであるのです。
生姜
いわずと知れた消化力促進効果のある薬味ですね。カパとヴァータを下げ、熱を生みやすいピッタにも生姜の辛味は良いとされています。食前30分に、スライスした生姜にレモン汁と塩をかけたものをよく噛んで食べると消化力がアップします。
材料(1~2人分)
- ひきわりのムングダル……50g
- バスマティライス(日本米でも可)……1/2カップ
- ギー……大1/2
- 水……2カップ
- 生姜……1かけ
- ヒング……適量
- 岩塩……適量
<タルカ用>
- ギー……大1/2
- 黒胡椒……小1/2
- クミンシード……小1
- カレーリーフ……ひとつまみ
- カシューナッツ 大1/2
タルカとは
「テンパリング」「シーズニング」ともいいます。
インド料理に良く出てくる調理法で、「スパイス、にんにく、生姜、ドライなままの豆などを油で炒め、香りや成分を油に移して、調理の仕上げに上からまわしかけます。立ちのぼる香りやカリっとした触感が料理をすばらしいものに仕上げてくれます」(『アーユルヴェーダ食事法 理論とレシピ』香取薫・佐藤真紀子著)。
タルカ専用の鍋もありますが、小さめの鍋やフライパンで代用可能です。
レシピ
- ムング豆を軽く乾煎りしましょう。そうすると香ばしい風味が出ます。そして、バスマティ米と一緒に洗っておき、30分ほど浸水します。
- 鍋にギーをあたため、みじん切りにした生姜とヒングを炒めます。水を2カップ入れて沸騰したら、お米と豆を入れて柔らかくなるまで煮ます。お玉の腹などで、軽くお米をマッシュしてもいいです。
- 野菜を入れたい場合は、お好みの野菜を細かく刻んで一緒に煮ましょう。
- <タルカ>別の鍋かフライパンにギーをあたため、黒胡椒を入れて香りが立ったらカシューナッツを軽く砕いて入れます。カシューナッツに色がついてきたら、クミンシードを加えてさらに炒めます。最後にカレーリーフを入れて火が通ったら3.にまわしかけます。混ぜたら完成です。
バリエーションの例
最後に、キッチャリーのレシピのバリエーションをご紹介します。入れる野菜や水分の量を変えるだけで、違った味わいを楽しめます。
野菜のキッチャリー
ご紹介したレシピと作り方は同じ。人参を加えています。紫キャベツなどを入れると色がきれいです。バスマティライスはほんの少量ですが、腹持ち十分です。
ポンガル
水野香織先生のアーユルヴェーダ料理(8月表参道Cross Kitchenにて開催)で教えていただいたとろっとしたお粥。キッチャリーよりも豆が少ないのだそうです。
使っているご飯は日本米です。カリカリとしたクミンシードと、黒胡椒のインパクトがあって、風味豊かなお粥でした。
ビーツとさつまいもとほうれん草のキッチャリー
ある日の私の夕食です。ビーツという、甘くて赤いカブを使って作ったスープの余りがあったので、それを用いました。さつまいもとほうれん草も他の料理で使った余り。余った野菜で手軽にできるのも嬉しいですね。
甘味のある食材が多いので、ほんのりと甘いキッチャリーになりました。
いかがでしたでしょうか?
消化力を助け、体の調子を整えてくれるお粥のレシピ。バリエーションに幅を持たせれば、飽きることなく、料理をする楽しみも増えるでしょう。
消化力が弱ってきた時に、キッチャリーでクレンジングしてみてはいかがでしょうか。
イラスト・写真:aki